第４章 静岡と東京、日本南北自由旅
私の生活は、不思議さが増していました・・・。
そのお寺の道場に時たまある訪問客がありました。サイババ信仰の方々でした。耳慣れないその方面の賛美歌みたいなものを演奏する集まりで、サイババという方がメシヤだと言ってまして、宗教は良く分からなかったけど、いい人たちでした。
時折食事をご馳走になったりしました。みなさん菜食主義者なんです。・・・アボガドのお寿司は本当のトロみたいで、豆腐を煮立てたそぼろは鶏肉とも分からない味だったなぁ。影響を受けて自分も玄米を食べるようになった。ある人は満月の日に断食をされていた。理解が難しかったですが・・・。
道場で生活していたころはよくフォーレ（GabrielFaure1845～1924）、フランク（CesarFranck1822～1890）の室内楽そしてラフマニノフのチェロソナタを聴きました。またもや学校に行けない駄目学生になっていました。（いま振り返ると、こんな人間がよく社会で生きていけるように成れたなぁ、と思ってしまいます・・・）東京にレッスンに出かけ、静岡では例の先輩が行っていたフラメンコ舞踊教室の伴奏に同伴するようになっていました。彼がスペインに行っていた間も、その教室でギターを弾き続け、発表会などでもギタリストとして参加しました。
ところで彼はカトリック出身でルネサンスの音楽にも造詣が深い人間でありました。少なからずその影響を受けた私はタリス（ThomasTallis1505～1585）やビクトリア（TomasLuisDeVictoria1545～1611）などの宗教音楽も聴くようになりバッハ（JhoannSebastianBach1685～1750）のマタイ受難曲やミサ曲なども聴く人になっていきました。
思えば、大学時代のフランス語の先生の予言（？）がありました。その先生は、レバノン人でクリスチャンだったのですが生徒一人一人のことを案じられる素晴らしい人格者でした（大変お世話になりました・・・）。また、日本語が不堪能なその先生とは英語で話さざるを得ずおかげで英語が少々できるようになった。（・・・これは後にフィリピン人のお嫁さんをもらう時に役にたったので、これまた不思議！）それで「音楽やるなら、バッハを勉強したらいい」とそのフランス語の先生が当時言っていて、後々大きな意味を持つとは露も思いませんでした。
クリスチャンといえば家庭教師をしたその娘さんのご家族もクリスチャンでしたね。そのご家族がお父さんの仕事の関係でアメリカに住んでいた際に「あなたは信仰を何も持たなくて、大丈夫？」と向こうの人から聞かれたそうです。アメリカ人は皆何か信仰を持っており、その後家族はそのひと言が契機となり後にキリスト教徒になったそうです。
我が家は母の実家がお寺さんで仏教徒でした。お墓参りする以外は信仰と感じれる要素はほとんどない生活ではありましたが。一方で神棚に毎朝水を供える母は神道でもあったのだろうか・・・？ 「自分は何者か？」という、アイデンティティの問題。これは非常に重要だと、しばらく後になって、実感するようになったのですが日本人というのはアイデンティティがとても曖昧な民族であると感じてしまいます。ちなみに私の妻も、そのような日本人の感覚が理解できないと時々言ってます。 さて話を戻しまして、静岡で生活していたころ夏休みが終わる前に学校を抜け出して学校主催の演奏会もすっぽかして（ソリストの中の一人になっていたのですが！）ギター抱えて鈍行列車一人旅を敢行！ 最初は何となく四国の友達に会いにいってみようかなとアポまでとって向かっていたのですが電車の中で気が変わって勢いづいて鹿児島、沖縄、そして日本最南端へ・・・。波照間島ってご存知でしょうか。そこへ行きました。一晩に１０以上の流れ星が見れる、お空がほんとに近い素敵な島でした。 さあ最南端に行けたとなると次はどうしても最北ですよね。行きました。知床半島の宗谷岬。虹色に輝く朝焼けが美しかった・・・。 そうこうして旅慣れしてくると、思い切りがよくなって私も今度はフラメンコのルーツを探りに本場スペインに行くことにしました。 フラメンコはスペイン・アンダルシア地方でジプシー（ロマ、ヒターノ）がもたらした音楽・芸術ですがその発祥はカディス県のヘレスと言われています。小さな田舎町でシェリー酒の産地です。
今回も、ルーツを辿る性格上、やはりその小さな町、ヘレスに行きました。色んな場面でルーツを探ってきた経験が功を奏しこんなところへ私を連れてくるとは・・・。こうしてスペインに行くようになった私ですが、通常のフラメンコ求道者とはその動機と目的が少し違っていたような気がします。ギターと辞書をもってスペインの街並みを歩き渡った日々は今でも昨日の出来事のように思い出します。
第４章：日本