前回記事(35)マイナー・ダイヤトニック応用編までで、ダイヤトニック・コードの全貌をお話してきましたが、やはり理論はあくまで理論、秘境的お宝というものは基本ルールの外にあったりするものです^^
というわけで、ここからは2回に渡り「ドミナント・セブンス・コードの特殊なケース」を探ってみたいと思います。
「特殊なケース」と言ってみましたが、これに対する「普通なケース」というのはいわゆるドミナント・モーションの働きにおけるドミナント・セブンス・コードのことです。Ⅴ7⇒Ⅰmaj7であるとかⅤ7⇒Ⅰm、応用としてはⅥ7⇒Ⅱm7やⅡ7⇒Ⅴ7などのセカンダリー・ドミナントも普通なケースと位置付けます。これらのダイヤトニックを中心にコード進行上に出てくるドミナント・セブンス・コードたちとは、ちょっと性格の異なる、目を見張る、耳を奪われる、そんなドミナント・セブンス・コードの使い方があるのです。
ブルース調「ふるさと」:ドミナント・セブンス・コードの特殊なケースその1
この「ふるさと」のコード・アレンジ例は、曲調がブルースっぽくなるよう意図して組み立てられています。コードの変更に伴って、1か所だけメロディも変化記号を付けてありますのでご注意ください。コードを鳴らしながらメロディを歌ってみてください。いかがでしょうか、この感じ。
どうしてこのようなブルージーな雰囲気が出てくるのか、その秘密はどこにあるのでしょうか?ここで少し本当のブルースというものがどのような音楽なのかに触れてみたいと思います。黒人労働歌であるとかやるせない思いをぶつけろといったストーリーはさておき、音楽の特徴をざっと説明してみたいと思います。リズム、メロディ(音階)、コードと3つの側面にやはりブルースらしさの要素があるのですが、まずは定番コード進行を見て行きましょう。
ブルース由来のドミナント・セブンス・コード
上記はごく一般的な3コードのブルース進行です。
ブルースは、12小節の繰り返し音楽であり、基本はシンプルなⅠ・Ⅳ・Ⅴの3コード(ここでは割愛しますが、応用したジャズのブルースになるとコード進行に手が加わって非常にカラフルなものに成りえます)。
このブルースのコードを見て下さい。全て、ドミナント・セブンス・コードになっています。コード的視点で見ればこれによって、ブルース音楽の持つ独特な雰囲気、サウンドを醸し出していると言えるわけです。
これを利用し、ごく普通な長調短調の音楽でも、そこにブルージーな雰囲気を添付したいときには、ⅠやⅣのコードをドミナント・セブンスに変えるという方法があるのです。今回の「ふるさと」例はそれでした。
ブルース音楽についての補足説明
リズムの面からすると、ブルースは基本的に4拍子でシャッフル(スイング)している3連符系のノリを持ったリズムです。ただ、リズムはどんなスタイルであっても関係無く、コートとメロディによっていくらでもブルージーな雰囲気を醸しだせます。
メロディの面についてですが、上記コード進行に対して、よくマッチする音階を二つ紹介いたします。ドレミファソラシドのファとシを抜いた5音音階である「ペンタトニック・スケール」と「ブルー・ノート」と呼ばれる音程が強烈な個性を放っています。
上記Aの譜例および左のポジション図のスケールを弾いてみてください。この感じ、そうです、まさにブルージ―ですよね。
これは「Cメジャー・ペンタトニック・スケールにブルー・ノートを足した音階」です。ブルース・フィーリングが漂うブルー・ノート入りのペンタトニック・スケールというわけです。
ここでいわゆる「ブルー・ノート」とは「Eb」の音を指しています。通常のメジャー・ペンタトニックの長3度音程を半音下げた音のことです。
次は、「Cマイナー・ペンタトニック・スケールにブルー・ノートである「Gb」の音(完全5度音程の半音下)を足した音階」です。譜例Bの指板図がこれです。
ロックのアドリブなんかでしょっちゅう出てきそうなサウンドですね。
ここに紹介しました2種類のスケール、これはメジャーとマイナー、長調と短調です。CメジャーとCマイナーの音階の一種だということです。普通の音楽においては、たとえばハ長調の曲にハ短調のメロディをぶつけるなんてとんでもないハズレですよね。しかしこのブルースにおいては、どちらもイケるんですよね!メジャーとマイナーが共存出来てしまう・・・なんとも不思議な音楽です。
その共存を可能にしているのがまさに、この特殊なドミナント・セブンス・コードだったのです。